重い後遺症に苦しんだ一人の男性が、「陶芸」という新たな道を進んでいます。

その男性は、市内長蔵に住む須賀明さん。山梨県に生まれ、元の仕事先は埼玉県庁。県の職員時代に、川口市で代々造園業を営む須賀家の悦子さんと結婚。それを機に明さんは職種を転換し須賀家を継ぎます。老若男女にわかりやすく樹木の扱いをまとめた「庭木の仕立て方 あなたも植木屋」ほか5冊の出版も手掛けました。作家の瀬戸内寂聴さんも参考にしたそうです。

年を追うごとに仕事の幅は広がり多忙な日々でしたが、趣味の山歩きや陶芸で気分転換し、充実した日々を過ごしていました。そんなある日、脳梗塞を発症。一命は取り留めましたが右半身に重い後遺症が残りました。「動かない手はいっそう無いほうがまし」と、自暴自棄に陥る日々が少なくはなかったと明さん。

そんな苦しい気持ちを救ったのは陶芸でした。「右手がダメなら自由になる左手がある!」と、左手で土を練る作業に挑戦。ところが、発症前に扱っていた半分の量の土でさえ練ることができず、力が入りません。陶芸の基本も思うようにならないことに怒りさえ覚え、自分を責める日々も多くありました。

元来明さんは作業の正確さを求めてとことんやりきる性格です。功を奏したのが4年前の長男のお嫁さんの一言。「結婚式には、招待客の皆さんにお義父さんが焼いた作品を贈りたい」。この言葉が明さんの胸を突き、制作意欲を掻き立てます。悪戦苦闘を重ねながら、招待者の人数分の湯飲みを仕上げました。結婚式当日は、その出来栄えと努力が多くの人々の心を動かし、明さんも熱い感動を覚えます。

粘土を触ることで得られる充実感や、焼く作業で得られる自然との一体感なども加わって、須賀さんが自分で見つけ出した陶芸の制作過程は、まさに後遺症のリハビリそのもの。今、須賀さんは土曜、日曜を主体に、教えるというよりも一緒に楽しんで作り上げようと数人で陶芸教室を開いています。目標は、茶道を極める悦子さんの設えで展示する作品展。早朝4時30分には、窯に火を入れることを日常の習慣として、普段をもっと特別な日にする器の制作に力を注いでいます。

 

 

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